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ねむい季節

今の季節はねむいですよね

映画『世界最速のインディアン』 夢との向き合い方が人生になる

世界最速のインディアン』 夢との向き合い方が人生になる

たまに、ふらっと映画を観たくなる。
なんとなくなんだけど、何千億円もかけて作られた映画を、2000円もせずに見られるのはすごい贅沢なのに、ちょっと高いなとみんなは思ってるんじゃないかな、と思う。
単館系の映画館がたくさんあって、それを観に行ってた頃から好きで、みたいな話はまた別の機会にするとして、休日の夜にご飯でも食べて帰ろうかなと思った時に、ふと映画館に寄りたくなることがある。今だとまずネットで調べてからってなりがちだけど、いきなり行ってみるのも悪く無い。

その時も、なにかやってないかな、と、映画館でポスターを見た。
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世界最速のインディアンアンソニー・ホプキンスが、なんとも言えない笑顔でこっちを見ている。
ああ、これは大当たりか大外れかのどちらかだ。B級テイストあふれるというと失礼なんだけど、つまり超大作映画みたいに派手にお金をかけてガンガン押し付けてくる楽しさではない。

でも、気になるじゃないか。世界最速のインディアン。すごい早いのか。インディアンと競争するのか。なんなのか。

庭の芝生の手入れをしろよと隣人に小言を言われるような小さな町に一人で住む機械いじりが好きな爺さんが主人公だ。隣の家に住む男の子とは仲良しで、しょっちゅう話をしたり、バイクいじりを見せたりしている。
この爺さん(バート・マンロー(アンソニー・ホプキンス))の誕生日を、街のホールでお祝いしていると(そういう小さな町なのです)見るからにバイカーという風体の若者たちがドヤドヤとやってくる。世界一速いバイク乗りと名乗ってるのは誰だ!
この時、バートは一回スッとぼけるのだ。誰がバートかな?と。
豪傑でもなく、大胆でもなく、それでいて結局レースすることになれば、海岸でレースしてターンで失敗したと悔しがる。そして、いつかアメリカのボンヌヴィルにあるソルトフラッツ(塩湖にできたまっ平らな平原)で行われる、世界一速いバイクを決める大会に出場したいと夢を語る。

そう、このバートのオンボロバイクの愛車が、インディアンというのだ。
いつかを夢見て、ひたすら愛車を磨き速度を上げる工夫を続けるバート。
そして、医者から狭心症を告げられ、もはやバイクには乗れないと宣告される。

いつかはもう来ないかもしれない。今しかない。
そうして、バートはニュージーランドの片田舎から、延々とアメリカはユタ州のボンヌヴィルを目指す。
その出発の時、彼の見送りに来たのは、海岸で勝負を挑み、バートのインディアンが浜辺でターンできなかったのを笑っていたバイカーの群れだ。
どんな時でも、バートは自分から名乗り、そして握手を求める。ユーモアを忘れず、相手への敬意と愛情を持ち、それでいてキッチリ値切るし、手伝ってくれと協力を求めることも厭わない。

彼は諦めず、ついにソルトフラッツに辿り着く。
そして、困難に当たるたびに解決策を探り、助力を頼み、世界最速を目指す。

彼が結局のところ、世界最速になれたかどうかは、映画を見ればわかる。
なんなら、ググったりすればすぐに分かるだろう。実話を元にした創作だということもわかる。
だが、バートの生き様に影響されて、そしてこの映画に関わった人たちが言いたかったのは、たぶん事実そのものじゃない。

世界には見たこともないものがあり、聞いたこともないことがある。
ニュージーランドの片田舎に引きこもってひなが一日バイクを弄ってるような爺さんでも、過去があり思い出があり、そしてまだ夢がある。そして、その夢に対してどう関わっていくかが人生で、老いて枯れていくことも含めて、きっとその人の生き様なんだろう。

夢があっても、今できないこともあるだろう。今すぐできる人ばかりじゃない。
でも、率直に名乗ったり、相手の話を聞いたり、困ったときに助力を頼んだり、そういった普段の行動が、その人の生き様を示しているような気がする。
アンソニー・ホプキンス演じる映画の中のバートは、若者は苦手そうだし、慣れないことでは戸惑うし、中古車を値切った上に溶接の手伝いをさせることに躊躇しない。聖人でもなければ、ヒーローでもない。そこにいるのは夢のために、自分の人生を賭けた男がいるだけだ。

自分が、何かのために人生を賭けるとき、そのチップには何が映っているだろうか。


そんなことを考えながら、帰りの電車に揺られた。
映画館にいきなり行って、何も調べずにポスターだけを見て映画を観る。それもまた、きっと生き様なんだろうな、とか。
感動するわけでも大笑いするわけでもなく、何度も見返すような映画では無いと思うけど、ほんとうにふっとした時に観たくなる、この映画のような人生を送れているか、たまに確認したくなる。

紹介映画情報

世界最速のインディアン』The World's Fastest Indian

ニュージーランド最南端の街、インバーカーギル(Invercargill)に住んでいたバート・マンロー(Burt Munro)ことハーバート・ジェームス・マンロー(Herbert James Munro)の実話に基づいた映画。日本では赤バイの名で有名な「インディアン」の改造バイクを相棒に、アメリカはユタ州ボンヌヴィル・ソルトフラッツで行われる世界最速記録の大会へと向かうロード・ムービー。127分。